#87 「パン屋の食堂で演奏会」に行ってきました

【福井尚子•高志】


1月23日に、二宮が誇る大人気のパン屋さん、Boulangerie Yamashitaで行われた演奏会「パン屋の食堂で演奏会vol.27」にお邪魔してきました。


Boulangerie Yamashitaさんへは、パンを何度も買いに行ったことがあるのはもちろん、作家さんの展示やカメラマンさんの写真展を見に伺ったこともありましたが、演奏会に参加するのは初めて。

さらに、今回は、過去に受講したことがある音楽講座(自由大学のDIYミュージックという楽しい講座です)の教授を務めておられたsawakoさんが演奏に来られるということで、これは行くしかない!と申し込みをしたのでした。


今回の出演は、electronic sound、つまりパソコンを使って音を出したり周りの音を変換したりするsawakoさんと、クラヴィコードの内田輝さん。クラヴィコードという、ピアノにも似た鍵盤楽器は見るのも聞くのも初めてでしたが、14世紀に考案された楽器だそうで、内田さん自ら1年ほどかけて製作したものを演奏に使っているとのことでした。


演奏会には、20名近くの方が聴きに来られて大盛況。照明は落とされ、ロウソクの光だけで照らされた何ともムーディーな空間で始まりました。

冒頭の挨拶で、オーナーのヤマシタさんが「パンを作るのも、展示会をするのも演奏会をするのも、何か心に残るものを持ち帰ってもらいたいという点では同じなのです」とお話しされていて、パン屋×音楽という組合せがすごくしっくり来たのでした。


演奏は、まず内田さんのサックスとクラヴィコードのソロからスタート。グレゴリオ聖歌をアレンジしつつ即興的に音楽が奏でられます。クラヴィコードは、ピアノのように弾くだけではなく、弦をはじいたり、鍵盤の右側部分を叩いてパーカッション的に使ったり、様々な使われ方をしていました。本当に綺麗な音色とメロディーで、即興だというのが信じられません。

続いてはsawakoさんのソロ。周囲の音を含め、空間全体の音楽をコーディネートする、との言葉通り、PCやアタッチメントを駆使した滑らかな音楽に、目を閉じながらどっぷり浸かる時間は最高でした。環境音が入ったり外の音も入ってきたり、窓の外との境界が曖昧に感じられ、パン屋の食堂という枠を超えて外とも一体化した空間にいるような不思議な感覚になりました。「雨の音が入ると面白かったから止んで欲しくなかったなー」と笑顔でお話しされていたのが印象的でした。


その後は、休憩を挟んでお二人のセッション。

・内田さんのクラヴィコード&sawakoさんで、内田さん作曲「Rainy island」

・内田さんのサックス&sawakoさんのピアノで、サティの「ジムノペディ 第1番」

・内田さんのピアノとsawakoさんで、宮沢賢治の「星めぐりの歌」

という豪華で多彩な組合せでした。

クラヴィコードと電子音楽については、お二人も、14世紀と現代の楽器、さらには全然時間軸も違う音楽の組合せが面白いとお話されていましたが、頭で考えると一見交わらないような組合せなのに全く違和感なく、非常に心地よいセッションでした。

ピアノはオーナーのヤマシタさん保有、内田さんが調律されているものだそうです。Boldwinというアメリカのブランドの年代物で、調律も難しいそうですが、こじんまりと可愛いフォルムと優しい音色はお二人の演奏とその空間にすごくマッチしていました。


クラヴィコードは音が小さいこともあって、耳を澄ませて音楽に浸る2時間は、まさに昔sawakoさんに教えてもらった「耳が開く」という感覚でした。


今回はヤマシタさんと出演者のお二人の「子どもにこそいい音楽を聴いてほしい」というご厚意で、0歳の娘を連れて参加しました。思いの外静かな雰囲気でハラハラする場面もありましたが、空間の様々な音を取り込むsawakoさんの演奏前に内田さんが「最高の共演者がいるね」と娘のことをさしてくださり、sawakoさんが娘の声を取り込んでくださることも。終演後に他の観客の方にも「いいセッションしてたね〜」と声をかけていただき、みなさんの優しさにとっても救われました。


演奏後には、クラヴィコードを弾かせてもらうこともでき、昔ピアノをかじっていた私としては非常に有難い体験となりました。終演後も、聴きに来た皆さんが余韻を楽しむようになかなか帰らずお話を楽しまれる姿が印象的で、それぐらい浸っていたくなる本当に素敵な時間を過ごすことが出来ました。

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